RITUEL開店、あるいは魔法使いの降臨
2015.08.30 Sunday 19:53
自由が丘にRITUEL par Christophe Vasseur(リチュエル パー クリストフ・ヴァスール)が誕生した。
パリの名店デュ・パン・エ・デジデのクリストフ・ヴァスールが手がけたヴィエノワズリー専門店。
パリのデュ・パン・エ・デジデで驚異的なパンの数々を食べたとき以来、クリストフ・ヴァスールは私の憧れの人となった。
RITUELのオープニングではじめて本人にあった。
アーティスティックな人であるにちがいないという想像こそ的外れではなかったけれど、私が思っていたよりもずっと饒舌でハイテンションだった。
伝統的な製法を踏襲し、発酵時間は長く。
クロワッサン生地は30時間の発酵をとる。
現代フランスのブーランジュリーでクロワッサン(デニッシュ)生地は自家製が減り、冷凍生地に置き換わりつつあることを危惧し、伝統製法を後代に伝えていく狙いがある。
パリのスペシャリテ「パン・デザミ」はリチュエルでは披露されない。
まず日本進出の第一段階では、もうひとつのスペシャリテであるヴィエノワズリーに特化する。
クロワッサン、そしてエスカルゴ。
エスカルゴとは、カスタードとともにさまざまなフルーツを中に巻き込んだものだ。
RITUELの壁に書かれたクリストフ・ヴァスールの言葉。
「わたしたちにとってかけがえのないこの大地は親たちの世代から受け継いだものではなくこどもたちの世代から借り受けているのです」
可能な限りローカルであることにこだわり、オーガニック素材を積極的に使用するのも特色のひとつ。
日本の小麦を試作、白羽の矢を立てたのはアグリシステムの北海道・十勝産小麦。
ヴァスールさんは「スム・レラ」「キタノカオリ」と小麦粉の名前を次々挙げ、「どれもすばらしい」。
RITUELのヴィエノワズリーに使用されるのはオーガニックのハルキラリ。
地球環境に配慮し、いい素材を作る農家を応援する狙いがある。
「RITUELが小麦を買うことで、オーガニックの畑を少しずつでも増やしたい」と。
その取り組みに大きな共感を覚える。
私のお気に入りはニフレットだった。
カスタードを塗ったパイ生地を四角くカッティングしている。
パリの敷石のようなポエティックな形が歯で弾け、さくさくと軽やかに鳴る。
バターのおこげと旨味、クリームの卵感、ミルク感、そして上質なバニラが交錯。
はちみつのような、花のような不思議なやさしい香りはなんだろうと思ったら、オレンジフラワーウォーターとのこと。
クリストフ・ヴァスールは香りの魔法をかけたのだ。