パンの研究所「パンラボ」。
誌面では紹介しきれなかったパンのあれこれをご紹介します。
パンのことが知りたくて、でも何も知らない私たちのための、パンのレッスン。
突然、パンラボ編集部に小包が届いた。
突然、パンラボ編集部に小包が届いた。
中にはパンが入っていた。
なんの心当たりもない。

プレゼントか?(それなら大歓迎)
新手の詐欺か?(パンがあるとなんでも食べてしまうので気をつけなければ…)
爆弾テロか?(それは考えすぎだと思う)

同封されていたのは「妄想ブーランジェリ」と題されたプレゼン資料。
おそるおそる読んでみるとこんなことが書かれていた。

「僕は今、今春まで有機農業を学んでいた京都府最北端、丹後半島は弥栄町にある梅本農場で育てた小麦を自家製粉して(一部だけど)ロケットストーブと手作りオーブンで薪を使って、ルヴァン種(小麦だけで起こす最も根源的なパン種)でパンを焼いています」

「僕は五感で伝えられるパンが焼きたい。生きている喜びを飽和状態までねじ込んでパンを焼きたい。
そのためにはやはり本質に触れないといけないと思いました。だからぼくは今年の秋に長期でのフランス行きを決意しました」

「しかしながら資金が足りません!もし僕のパンを食べて、ぼくのやるべきことに賛同し、それだけの価値があると思っていただけたら、思っただけの価値でどうか、支援して下さい。目標は50万円です」

妄想ブーランジェリ店主こと、太田光軌さんは、フランス修行の資金を稼ぐため、各所にパンを送りつけたというのだ。
さて彼の妄想は現実化するに値するのか?
私は半信半疑ながら食べてみた。

まずはミッシュブロート。
ライ麦・小麦粉が半々のドイツパンである。
炎とライ麦が結合し、核融合を起こしていた。
最初に香りだす皮の渋みライ麦の香りに気品があり、あとから滲み出してくる淡い塩気と穀物的な淡さにやさしさがある。
発酵種の香りを気配としてまとわせていた。

うーむ、なかなかやるではないか。
つづいてタンゴカンパーニュと名づけられたパンを口にする。
粒立つ気泡のひとつひとつに味わいが詰まっている。
麦であり発酵種の味わいであり。
大根のような滋味深い根菜の香りにそれは似ている。
やがてうるおいに満ちた中身はやわやわと溶け、そのやさしい穀物感はおかゆを思わせる。

どうしたことだろう。
こんな簡単に太鼓判を押していいのか。
と思ったけど、おいしいと思ったものがおいしいパンなのだ。
パンラボ編集部ナカムラ氏と私はわずかばかりのお金を寄付した。

今頃はフランスの空の下にいるのだろう。
いったいなにを感じ、なにを学び取って帰ってくるのだろう。
そして、どんなパンを焼き、どんな店を開くのだろう。
その日が待ち遠しくて仕方ない。
でも、後悔がないよう、焦らずフランスのパン文化を吸収してほしい。

自分で麦を作り、パンを焼くという原点のパン作り。
それは小麦ヌーヴォーなどを通じて、私の後押ししたいことでもある。
太田さんが妄想のパン種をふくらませていくさまを見守っていきたい。(池田浩明)

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